小川仁志:前科があると就職できないのかどうか。法的には一定以上の前科が欠格事由になる職業もあるわけですが、一般には契約関係に委ねられているわけです。その意味では、合理的な理由がない限り、前科を理由に採用しない、あるいはその前段階として面接の機会すら与えないというのは、不合理な差別に当たると考えられます。法的救済については様々な方法がありうるでしょうが、ここでは哲学的問題として考えてみましょう。とりわけご質問のポイントに絞って話をしたいと思います。つまり、前科のある人に対して、企業が面接すら受けさせないのは多様性を認めないことになるかどうか。まず前科のある人とはどういう人か、それが何を意味するのかという点についてです。前科というのは、法律に違反することで刑罰を受けた人のことです。しかし、すでに罪を償ったわけですから、あくまで過去の過ちを意味するものに過ぎません。もしそのことを理由に差別をするということであれば、それはその人に対してさらに社会的制裁を加え続けることになります。再犯の危険性があるというのなら、法が対処すべきことだと思います。したがって、そうでない限りは不合理な差別に当たるでしょう。では、そういう人に対して、企業が面接を受けさせないという点はどうか? 企業は一私人であり、基本的には自由に契約を結ぶことができます。その意味で、何らかの理由によりその前科が仕事に影響を及ぼすという場合は、採用時の考慮事由に該当するかもしれません。ただ、面接すら受けさせないというのは、法で定めた欠格事由に該当しない限り、書面によって明らかに判断が可能である場合を除き、不合理に差別をしていると捉えられても無理はないように思います。さらに、そのことが多様性を認めることに反するかどうかですが、これはまさに当てはまるといえます。多様性とは、文字通り多様な人を受け入れるという意味であって、逆にいうと合理的理由なしに特定の属性を有する人たちを排除しないことを含意するからです。以上から、もちろん個別のケースごとに考察は必要なものの、一般論としては前科を理由に企業が面接の機会すら奪うというのは、可能な限り多様性を認めようとする今の社会の趨勢に反しているように思います。