Koji Fujita:Chomskyも最近は寄る年波には勝てず(?)共著が多いですけどね. 言語学,特に理論系は単著論文が多いですが,これは(昔なら)紙と鉛筆だけあれば一人でできるような研究内容(決して貶しているわけではないです)だからでしょう.一方共著者が多いのは実験系の自然科学分野で,共著者50名以上,著者名の部分だけで1ページを超えるような場合もあります.それぞれの役割分担が決まっており,貢献する部分が異なるので多数の共著者がいる,ということなのですが,1つは文系と理系の文化・伝統が異なるということもあると思います. 理系の場合,共著が当たり前で多くの人,例えば研究室単位でその研究に関わるようなことがありますが,文系では単独で行える研究も多く,共著論文があまり目立たないということがあるでしょう.それでも過去に比べれば共著の言語学論文も増えてきている印象です. 共著のいい点・悪い点ですが,単著であれば全部一人で勝手にやれますが共著だとそういうわけにもいかず,他の共著者との協働に時間がかかるという点がデメリットでもあり,また自分一人では不足する部分を他の人に補ってもらえるのがメリットでもあります.実際には何の貢献もしていない人が共著者に入ることを防ぐため,現在は誰がどのような貢献をしたのかを明記するのが通例化していて,言語学も同様だと思います. あと,これは勝手な想像なのですが,共著者が多いということは,その一人ひとりが別のところでその論文を引用することで引用回数が増えるということも共著のメリットかもしれません.文系ではあまり重視されませんが,引用回数の多さがものを言う分野の場合,引用回数をかせぐには共著者が多いほうがお得,ということもあるんじゃないかと邪推します. また若手の院生をファーストオーサーにして,実際には研究室の教授や准教授も助言などして共著者に名を連ねる場合,その院生の業績作りをみんなで手伝っているような部分もあって,全部自分一人でやらないといけない言語学の単著論文より恵まれているのかもとも思いますね. 共著者が3人以上いた場合,一番重要なのはファーストオーサー(だいたい若手),次に重要なのはラストオーサー(研究室のボスなど実力者)で,ラストオーサーのネームバリューが採否に影響するなんて話も聞きます.STAP細胞の小保方論文のラストオーサーで亡くなられた笹井さんも大物でしたね.(Read more)
松下達彦:共同研究の進め方は分野によっても、人によっても異なると思いますが、私の考える共同研究のメリット(長所)とデメリット(欠点)は以下の通りです。 メリット(長所) ・自分の得意でない分野を補える(これが最大の理由です。当たり前のことですが)。専門分野も細分化しており、一つのトピックを多様な角度から考えたり分析したりしなければならず、先行研究も膨大で一人では調べて読むだけでも大変です。関連分野に強い人がいると研究が前に進みます。 ・自分にはないアイデアが出ることもある。(これも大きいです。文章の修正一つとっても、複数の目で見ると質が上がります。) ・サボれない。サボると他の研究者が困るので、決められた期限までに仕事をすることになり、結果が出せるようになる。 ・作業量が多い場合も分担できる。例えば、プロジェクトのまとめ役、研究の設計者、データ収集担当者、データの分析担当者、原稿執筆役などを分けられます。普通はまとめ役と設計者がそのまま第一執筆者(いちばん責任の重い執筆者)になることが多いのですが、ときには複数の人がこれらを分担することもあります。 ・楽しい、刺激になる、勉強になる。 デメリット(短所) ・考えが合わない場合もあるので、妥協したり、途中でやめたりすることもあります。やめてしまうと、それまでにかけた手間は無駄になります。 ・メリットに書いたことと矛盾するようですが、責任の所在があいまいだと、かえって一人で進めるよりもサボりやすくなることがあり得ます。誰が何をするのかが曖昧なうちに、ずるずると時間が経つといったケースです。プロジェクトのマネジメントが重要です。 ・打ち合わせに手間がかかる。時にはお金もかかる。オンラインで打ち合わせをすればお金はあまりかかりませんが、対面でやるとなると、出張することになります。 ・手柄(業績)が自分だけのものではなくなる。(多くの分野では、第1執筆者であるかどうかが大きな問題です。)第1執筆者であれば、単著と同じぐらいの評価をされるのが普通だと思います。ですので、逆に言えば、例えば二人で共同研究をして、貢献度が半々なのに、第2執筆者になってしまうと、不公平になりやすいので、共同研究をするときは誰が第1執筆者になるのかを早い段階で決めるのがよいと思います。また、学位論文の一部に共著論文の内容を入れたい場合は、学位規定などを事前によく調べたり、問い合わせたりしたうえで、共著にして学位請求に問題がないかどうかを確かめておいた方がよいでしょう。 メリットもデメリットも、まだまだあるかもしれませんが、総じて言えば、共同研究のメリットは非常に大きいです。学位論文の場合を除けば、若いうちから、共同研究をたくさんやったほうがよいと思います。Chomskyのように、独自の学問体系を築けるような天才は別ですが。(Read more)