「位相空間論がわからない」というのは珍しくはないと思います。線形代数などはたとえば行列などを使って計算を行うような具体的な手がかりがあるように感じますが、一般的な位相空間になると何を手がかりにして何を学べばいいのかわからないからです。

あなたの場合にぴったり当てはまるかどうかわかりませんが、数学で「与えられた公理のみを使って議論を展開する」という方法論に親しんでいるかどうかが決め手になると思います。

たとえば高校までの数学では、何らかの具体的な数学的概念が前もって既知のものとして与えられ、《それ》がどのような性質を持っているかを習う学び方がほとんどだったと思います。

それに対して「与えられた公理のみを使って議論を展開する」というのはまったく異なります。というのは、既知の数学的概念というものは集合と論理しか与えられず、あとの数学的概念は「与えられた公理を満たすものが《それ》である」という形だけで定義されるからです。

線形代数や解析ならばすでに数学的概念のイメージをなまじっか持っているため、上で述べたような考え方の切り換えに気がつかない人がよくいます。しかし位相空間に対しては、そのイメージがないので上で述べた考え方ができないと学ぶのがかなりつらいと思います。

実は、線形代数も解析も「与えられた公理を満たすものが《それ》である」という考え方で大学の教科書は書かれており、授業でもそのような扱いになっているはずです。公理が与えられ、定義と定理と証明が続くのはそのためです。

位相空間は、私たちが持っている「遠い・近い」や「つながっている」や「なめらか」といったような概念を数学的に扱うためのものです。抽象的に包括したいための道具立てなので、抽象的になるのはしょうがありませんし、具体的なもので学んだとしても、その上で抽象化できなければ意味がありません(たとえていうならば「3匹の犬」だけを「3」という概念だと誤解するような誤りになるからです)。

以上を踏まえた上で、たとえば以下の本などをお読みになると学びやすくなるかもしれません。

◆藤田博司『「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史』

https://www.amazon.co.jp/dp/B07BK5NDCP/

なお、拙著の宣伝になってしまいますが、位相空間の定義や、上で述べたような公理についての考え方などは、私が書いた以下の本で詳しく述べています。

結城浩『数学ガール/ポアンカレ予想』

https://www.hyuki.com/girl/poincare.html

2022/01/26Posted
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