高橋賢:非常に難しい問題です。はっきりいうと,まだよくわかりません。人的資本を開示するとなると,その情報が投資家に対してどのような意味で有用であるのか,ということが問われると思います。この開示は,SDGsやESG投資の判断材料となる,すなわち企業が社会的責任を果たしているかどうかという判断の材料となるのと同時に,企業価値を高めるための経営戦略を遂行できるように人的資源を構築しているのか,ということがわかるような形式となる必要があると思います。内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」や,人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインであるISO30414などもありますが,現状方法がかっちり固まっているかといわれれば,そうとはいえません。
たとえば,人的能力を測る指標のひとつとして研修のデータを使うこととします。研修を行うことで,従業員の能力が向上しているはずだ,と考えているわけです。しかし,これは測り方や扱い方を間違えると,手段が目的となってしまうおそれがあります。研修は能力を高めるための手段のはずですが,場合によっては研修に時間を掛けること(すなわちお金を掛けること)自体が目的となってしまい,肝心の能力の向上という結果について測る指標としては的外れになってしまうことがあるからです。
とはいえ,人的資本の開示は冒頭で述べたように投資家からの要望があります。これから各企業が開示をしていくなかで,試行錯誤を繰り返しながら,ひとつの方向に収束していくのではないかと思います。