十文字青:いわゆる「陽キャ」「陰キャ」という分類で言えば、僕は後者でしょう。ただ、僕の場合、コミュニケーションが苦手というよりも、他者とコミュニケーションをとる意欲に欠けているのではないかと自分では考えています。また、「陰キャ」と言いつつ、陽気に振る舞うこともできるのです。 　たとえば、たまたま何かのパーティーに参加することになったとします。誰かが挨拶をしたり何かパフォーマンスをしたときに拍手したり歓声を上げたり指笛を吹いたりといったことを、僕は気が向くと積極的に行います。仕事の打ち合わせでも、努めて明るい声を出し、ポジティブな発言をするよう心がけていますし、仕事相手を励ましたり褒め称えたりといったこともしがちです。僕は物怖じすることがないので、誰とでも平気でしゃべれます。「偉い人」はちょっと苦手ですが。社会的地位が高い人は、他者にかしずかれて忖度されることに慣れていて、そうされないと不満を感じる場合があります。しかし、僕は誰のことも偉いとは思っていませんから、基本的に恐れ入ることがありません。そのふりをすることはできますが、こいつは演技しているなとすぐ見破られるでしょう。偉い人の機嫌を損ねると不利益しかないので、なるべく目を合わせずに黙っていることにしています。 　僕は好意を持っている相手にはその旨を率直に伝えます。だからといって頻繁に会いたいとは思いませんが、たまには語らいたいので、億劫でない範囲で機会があれば自分から連絡をとるようになりました。 　さて、こういう人間は「コミュニケーションが苦手」なのでしょうか。そんなこともないのでは、という意見を抱く人が多そうです。 　僕は根暗です。一方で、僕にほがらかな印象を持っている人もいるでしょう。ある状況では極端に無口で、別の場所では異様に饒舌です。一時期、自分が人を殺したら、罪悪感に苛まれるだろうかと真剣に考えてみたことがあります。相手にもよりますが、たとえばとくに何とも思っていない人を殺しても、僕は平然としていられそうな気がするのです。逮捕されるのではないかと怯えて暮らすのはまっぴらですが。僕には不安神経症的な傾向があります。それでいて、ときどき危険を冒したがります。僕は「人でなし」と面罵されたことがあり、そう言われても仕方ないようなことを実際しました。少なくとも数人は、僕を信じがたい冷血漢だと思っています。過去、僕の言動には明らかに問題があり、実害を被った人もいました。自分に問題があることは承知していますが、申し訳なさを覚えない厚顔無恥さが僕にはあります。いわゆるお涙頂戴的なフィクションは好みませんが、それらを見たり読んだりすれば普通に号泣します。そのときは泣いても、引きずることは一切ありません。僕をやさしい人間だと評する者がいます。たしかに僕は特定の相手には親切です。我ながら呆れるほど冷淡でもあります。必要があればどこまでも計算高くもなりますし、条件が揃えば損得勘定を放棄します。 　僕は長い間、自分という人間をよくよく観察してきました。小説を書くまでは、突き詰めると自分にしか興味がなかったように思います。小説を書きはじめてから、自分自身と対比しながら他者に関心を持って追究するようになりました。自分以外の誰か、何かに興味を抱き、知ろうとし、それを自分なりに書き表したものが、僕にとっての小説なのかもしれません。