高橋賢:ヒトはオカネで動きます。ヒトは測られると動きを変えます。会計がやっているお金の計算で,組織の中の人間は動きを変えます。
オカネでヒトの行動が変わる,というのは我々も日常的に経験していることです。たとえば,友達と食事に行ったときに,どういう支払の仕方をするのかによって飲食の行動は変わるでしょう。飲み食いした分だけ払う場合と定額で飲み放題・食べ放題の場合だと,飲み方や食べ方は違ってくるでしょうし,相手が奢ってくれるのか,自分が奢る側なのか,完全な割り勘なのか,によってもやはり飲み方や食べ方は変わってきますね。
これは会社のような組織の場合でも同じです。計算される頻度や範囲,細かさ(粒度)によって,人は行動を変えていきます。その意味では,報告書の作成というのは,組織の中の人を動かす,という点でとてもおもしろい仕事だと思います。より上位の管理者にとってはその報告書は何らかの意思決定を行うための情報になり,より現場に近い人たちはその報告書に影響を受けて行動を変えてしまうかもしれません。「この報告書を出すとヒトの行動はどう変わるだろうか?」と考えながら財務の仕事をやると,案外楽しいものになるかもしれませんよ。
この「ヒトはなぜ測定されると行動を変えるのか」という点に関しては,伊丹敬之・青木康晴(2016)『現場が動き出す会計』(日本経済新聞出版社)というおもしろい本があるので,是非読んでみてください。