山内志朗:トロッコ問題のことと考えてよろしいのでしょうか。二者択一の状況に入って、どちらを選んでも不都合を引き起こす問題はジレンマと呼ばれています。こういうジレンマに対して正答はあるはずだ、二つの一つの場合、どちらかが正しいと考える立場もあります。そういう構造はしていないと考える立場もあります。パーフィットは『モラルジレンマ』という本を書きましたし、ハーストハウスの『徳倫理学』(邦訳アリ、知泉書館)も、このジレンマを扱ったものです。また最近翻訳(新訳)が出たギリガンの『もうひとつの声で』(風行社)もハインツのジレンマに対して、どう答えを出すのかを始まりとして、「正義の倫理学」と「ケアの倫理学」という二つの類型が出され、ケアの倫理学の枠組みを提示しています。ジレンマであっても、倫理学的な選択の問題には答え(正解)があると考えるのは正義の倫理学の立場です。ケアの倫理学や徳倫理学ではそういう考え方はしません。二つの一つとか、正しい答えはかならずあるという発想はしないのです。ジレンマをどう考えるのかは、現代倫理学の重要な話題ですが、二つの一つというように考える者を追い込む問題設定は私は誤っていると思います。詳しくは、ギリガンの本をお読みください。詳しく論じられています。
答えはあるはずだと考えるところが、倫理学的問題に対して態度を決定してしまっているのです。ギリガンは人間関係のネットワークを考え、決断できないヴァルネラビリティの意味を考えていきます。ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)が大事なのです。