この話題は多様な観点からの回答が可能で、しかも場合によっては大きな論議を生むものですから、前提条件をかなり絞りたいと思います。「私の本を新刊で図書館に入れる必要はあるか」という問いにします。この場合、私の答えは明確で「もちろんです」になります。

私の本は新刊であっても、図書館に入れていただけることは非常に大きな意味を持つと思っています。

まず、言うまでもないことですが、図書館に入るときには本が1冊売れますけれど、その後の利用者が図書館で読んだとしても、私にはいわゆる「印税」は入ってきません。私の生活は自分の本を読者さんに買っていただくことによって成り立っていますから、もしも私の読者全員が図書館で読むような事態になってしまったら、私の生活は成り立たず、本は刊行できなくなってしまいます。ですから、私の本を購入してくださる読者さんには深く感謝しています。読者さんのおかげで、私の生活は成り立っています。

しかし、それはそれとしても私は自分の本が図書館に所蔵されることには重要な意味があると思っています。理由はいくつかありますが、大きな理由の一つは「私の本と、読者さんとの出会いを増やすチャンスになるから」です。

私の本を買う/買わない以前の問題として、私の本を読者さんに見つけてもらう必要があります。見つけられないものは買うことができませんから。図書館で私の本に出会っていただき、それをきっかけとして購入してくださることはあるでしょう。実際、図書館で私の本を読み始め、大人になってから購入する人はたくさんいらっしゃいます。

また図書館にはすべての本があるわけではありません。良い本、人気の本、他の人も読んでいる本が中心になるでしょう。その意味で図書館にある本はセレクトされているわけです。そのような場に、私の本が存在することは読者さんに見つけてもらうという意味で重要であると思っています。

最近はSNSなどによって、読者さんが読んだ本を紹介することがあります。私の本もしばしば紹介していただけます。その中には図書館で借りたものやあるいは古本として購入なさったものも含まれています。その読者さん自体は本を購入していないので、私には1円も入ってきていませんけれど、それよりも「私の本を広く紹介してくださっている」という宣伝の意味があります。言うなれば、私は1円も宣伝費を使っていないのに、わざわざSNSで宣伝してくださっているわけですね。それは大きく感謝すべきことだと思っています。

まとめますと、図書館に所蔵されて利用者がそれを読むことは近視眼的に見れば確かに機会損失と言えなくはありません。しかしながら、長期的に考えてみると、利用者さんは私の本と出会い、私の本を読み、私の本を他の人に紹介してくださることになりますから、単純な機会損失とはいえないと思います。

私の著者としての心意気は、たとえ図書館で借りて読んだとしても「また読んでみたいな」や「手元に置いておきたいな」や「機会があったら他の人に紹介したいな」と思っていただけるような魅力的な本を書くことです。

図書館や古書店での流通がすべてになってしまっては困りますけれど、多様なチャンネルが用意されており、読者さんの経済事情によって本とのさまざまな出会いの機会があることは大事なことだと思います。

なお、繰り返しになりますが、以上はあくまで私の本を図書館に入れるかどうかという観点での話です。他の著者さんは違う考えをもたれるかもしれませんし、他の立場の人はまた違う観点からの意見を持つことと思います。それらの考えを否定しているわけではないことはご承知おきください。

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関連する文章へリンクします。

◆著者として、図書館について思うこと(本を書く心がけ)

https://mm.hyuki.net/n/nc7eaf3733316

◆本を届けてください|結城浩

https://mm.hyuki.net/n/n6c52f30764b9

↓こちらの本には図書館にまつわる結城のインタビューが収録されています、。

◆岡部晋典『トップランナーの図書館活用術 才能を引き出した情報空間』

https://www.amazon.co.jp/dp/458520055X/?tag=hyuki-22

2022/09/04Posted
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