福島真人:カルチュラルスタディーズというのは、もともと第二次世界大戦後の英国で、正統的社会学がそれまであまり取り扱ってこなかったような現象、例えば労働者階級の若者が、ブルジョアっぽい服装をするといった流行現象に対して分析してみようと始まったもので、グラムシの文化マルクス主義や、記号論等、様々な枠組みを援用し、文化的流行現象(その中にはネッシーについての噂みたいなのもあります)を追ったものでした。発表の舞台がマルクス主義系のNew
Left
Reviewという新左翼系の雑誌だったこともあり、理論的厳密さよりも、実践的活動や運動との関係も重要だったようです。実際主導者の一人スチュアート・ホールはインタビュの中で、我々はあまり特定の理論には拘泥しない、使えるものはなんでもつかう、といってますし、実際、知り合いの高名な科学社会学者(フランス人)は、自分の理論の断片的使われ方に不満を言ってました。他方アメリカに長かった知り合いのメディア社会学者は、冷戦でマルクス主義が大学から駆逐された米国では、このカルチュラルスタディーズを通じて、マルクスがロシア人ではないということを知った、とよく冗談を言ってました。もともとそういう込み入った背景があるので、それが単純に学問化するのがいいことなのかはよくわかりません。