鵜山太智:質問ありがとうございます、系外惑星の観測にのみならず一般的に天文の科学観測は様々なノイズが入ってきます。望遠鏡の装置由来のノイズ(暗電流、バイアス、バッドピクセルなど)や、地上の観測だと地球大気による影響(波長にもよりますが熱雑音やテルリックなど)などもノイズ源です。これらは観測装置、観測手法によって各々どれが効いてくるかは変わります。解析的にある程度推測可能なものは事前にノイズを計算に入れる事ができるのですが、時には観測ごとに変動するノイズもあるので、そのあたりは実際のデータからノイズを計算しないといけません。
例えば系外惑星の直接撮像は星と惑星を空間的に分解するのですが(下図参照、©️国立天文台)、現存する望遠鏡の分解能に対して惑星がかなり星の近くに位置してしまうので、星の光自体がノイズになってしまいます。
この図だとBで示されているぽつっとした点が実際に確認された惑星で、中心星となる恒星(GJ
758、中心でマスクされている)の光をできるだけ差し引くという操作を経て得られています。ここで星の近くにはもやもやっとした構造が見えており、これが星の光由来のノイズです(フォトンノイズ)。このもやもや具合は、地球大気による星像の歪みという観測中に起きるランダムな変動が影響しておりまして、定量的にモデル化できないので引き残りが起きてしまっています。
さてこれだけ見て、Bが本当にリアルなものなのか、ノイズなのか。ぱっと見だとそれっぽいなと思うだけで、見た目だけでは判別できないので、まずはこの画像からノイズを計算してS/N比を調べます。ノイズの計算をどう行うかの細かい部分は割愛させていただきますが、大まかに言うと共通項を持つエリアにおけるピクセル間の値の標準偏差を計算しています。そうすれば中心部分は画像のカウント値は大きいものの、ノイズも大きいのでS/N比は小さくなります。一方で、外側に行くほどのっぺらしていてノイズが小さく、Bのようなぽつっとした構造があればこの部分だけS/N比が大きく現れます。僕らの分野ではS/N=5が検出の目安です。
ただここまではある意味必要条件で、そこからこの構造が解析処理によって人工的に生じたものなのか、本当に天体なのかなどを調べる必要が出てきます。直接撮像のデータ解析ではforward
modelingと言って、解析前の元データにおいて何もないと分かっているところに偽の惑星シグナル(化学分析における標準物質にあたると思います)を埋め込んで、同じように星の光を差し引く解析を行います。きちんと埋め込んだシグナルが再現できていれば、解析手法が正しいことの証明になるので、検出したシグナルはよりリアルっぽいと推察できます。
またリアルな天体だったとしても系外惑星なのかどうかという更なる分析や追観測の議論がありますが、一つのデータセットとしてはここまで行ってひと段落という感じです。