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ご質問をお聞きして「学生時代にあまり勉強をしてこなかった件と、両親からバカにされる件と、現在の自分が感じている件とが入り交じっている」という印象を受けました。混ぜてしまうと話があちこちになるので、順番に思ったところをお話しします。

学生時代にあまり勉強をしてこなかった人はたくさんいますが、あなたは勉強し直そうとなさっています。理由は書かれていませんが、勉強し直そうとなさる態度はすばらしいと感じました。

あなたは何か具体的な目的(やりたいことや知りたいこと)があるのでしょうか。具体的な目的が特になくても、自分が知らなかったことを知るのは楽しいことですし、自分ができなかったことができるようになるのも楽しいことです。

何かを学んでいて、ときおり「なるほど、そうなのか」や「そういうことか、わかったぞ」のような感慨を抱くことがあったら、その喜びを大切にしていただきたいと願います。その「なるほど」は学ぶ人にとって最高のごちそうのようなものです。それを深く味わうならば、他のさまざまなものは、おまけのようなものです。

その「なるほど」という感覚は、直接的にお金で買うことはできません。自分が時間を使って考えたり、手を動かしたりして、理解して初めて得られるものです。その学ぶ喜びをぜひ味わってほしいと思います。

学生時代にあまり勉強をしてこなかったならば、学ぶ内容の難易度はもしかしたら他の人が学んでいるよりもやさしくなるかもしれません。でも、他の人との比較は(少なくとも学ぶ喜びにおいては)意味がありません。自分の理解の最前線、自分の理解のフロンティアを少しでも進めることを喜びましょう。

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学んでいると両親からバカにされるという状況は理解しがたいものがあります。理解しがたいというのは、学ぼうとしている人をバカにする人が何を考えているかわからないという意味です。学んでいる人をバカにして得られるメリットというのが想像できません。

強いて考えるならば「うらやましさの裏返し」です。また、懸命に学んでいる人がそばにいると、自分が学んでいないことを責められているように感じる人はいるでしょう。だから、自己防衛として学んでいる人をバカにするのです。いわば、自分よりも高いところに登ろうとしている人がねたましいので、捕まえて引きずり下ろそうとする心理です。

学んでいるとバカにしてくる相手が両親であるというのは非常に悲しいことですが、あなたが話しているように「相手にしなければいい」ということになりますね。

ただ、やっかいなことに家族というのは弱みを知っているものです。なのでバカにする際にも、痛いところを突いてきたり、嫌な気分になるような表現を使ってきたりする可能性が高いです。あなたが自己嫌悪におちいる要因の一つはそこにもあると想像します。

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現在あなたが感じる自己嫌悪や、後悔、罪悪感、惨めさのようなネガティブな思いは理解できます。残念ながら、そういった感情を、一瞬で消すことは難しいでしょう。何しろ感情とはそういうものですから。あるときには振り払えたとしても、繰り返しやってくる可能性は高いです。近くにバカにしてくる人がいるならなおさらです。

事実からスタートするのは一つの方法です。学生時代にあまり勉強しなかったのが事実だとして、それは過去のことですから、いまさらその事実を変えるわけにはいきません。あなたがおっしゃる「教養」のイメージははっきりとはわかりませんが、何らかの知識や技能や能力に欠けがあるのが事実だとして、それも認めてしまいましょう。事実は事実として認めてしまいます。

そして、次の一歩が大事です。そのような事実を踏まえて、では、現在の自分は何をするのか。何をしたいのか。そこに集中するのです。これは過去の自分が何をやったとか、何をサボったとかいう話とは無関係です。また、現在自分が持っている知識の量も無関係です。まわりにどんな家族がいるかとも無関係です。

現在の自分はどんな次の一歩を選ぶのか。そこに集中します。なぜなら、自分が現在できることはそこにしかないからです。

自分は勉強してこなかった。それは事実だ。だから、学びを進めない……なんておかしな話ですよね。

自分は勉強してこなかった。それは事実だ。でも、現在の私は学び始める。そのような一歩を選ぶ。

ネガティブな思いがやってくる。それが事実だとしても、現在の私は学びを続ける。そのような一歩を選ぶ。

今日の選択が、今日のあなたを作ります。そしてその選択の積み重ねが、あなたの人生になります。

応援しています。

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結城浩

EngineerWriter

本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。文章を書くこと、学んだり教えたりすること、プログラミング、数学、人と人とのコミュニケーションなどに関心があります。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。アマゾンの著者ページは https://link.hyuki.net/amayuki にあります。なお、私は数学読み物を書いていますが、数学科出身でもありませんし、数学の研究者でもありません。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。〔ゆうき・ひろし〕