Hidezumi Inoue:まず「よくあるか」なのですが「よくあること」ではありません。20年ぶりだそうです。
* IT産業集積のサンフランシスコ、今は「まるで別の街」…大規模リストラで空洞化が加速
* 米IT大手のリストラ相次ぐ、20年ぶりの規模…日本企業に人材獲得チャンス・給与は高騰
バイデン政権の方針もあり余剰資金がかなり流れ込んでおり景気の良い状態でした。リベラルな風潮に合わせようと「多様性のある人材」を確保しようという動きもあったようです。それももう用済みとばかりに放逐されるような状態になっています。女性と中年が厳しいといいます。
* アングル:米IT大手の大量解雇、多い女性や中堅社員 人材多様化後退も
ただし、これらのニュースには誤解もあります。
第一にご質問は「シリコンバレーでは」となっていますが、アメリカのIT人材が西海岸に集積していたというのは過去の話です。
さらに景気動向によって人材がカットされること自体はアメリカではよくあることです。終身雇用が前提の日本ではリストラは「あってはならない」ことなので大騒ぎになりますが、アメリカではリストラ自体が騒ぎになることはありません。
仮にIT人材が放逐されて街に失業者が溢れるという事態になっていれば「大騒ぎ」だったかもしれないのですが実はそうもなっていません。むしろFRBの景気抑制策に本当に効果が出ているのか市場が当惑するという事態になっています。市場は完全雇用に近い状態にあるようです。
* 米新規失業保険申請件数と継続受給者数、いずれも予想を下回る
* 「予想どんぴしゃ」のCPIに困惑、労働市場と矛盾-市場関係者の見方
おそらくなんらか別の理由で人材が枯渇気味になっていたという事情があるのでしょうが、一体何が原因なのかよくわかっていないというのが現状です。
---
ここまでの状況を状況を整理すると、これまで比較的高い給料をもらっていた中年や女性などには厳しいものの、全体としては「大騒ぎになるような状態」にはなっていないことがわかります。
冒頭に挙げた読売新聞の記事では「日本企業にも人材獲得のチャンスがある」となっています。しかし、それをシリコンバレーだけが悲惨な状況にあり日本が人材を買い叩ける状態になっているのだと読み取るることはできません。残念ながら状況を正しく判断しているとは言えないということになろうかと思います。
最後に実感なのですが「市場価値のある人は次を探せる」状態にあるのですから「今困ったと表明すると市場価値がない人と認めてしまう」ことになってしまいますよね。このため「卒業」とか「しばらく休養」というようなポジティブな表現を使う人が多い印象です。ただしアメリカは多様性のある広い国ですから、この辺りは人によって持つ印象がかなり違うと思います。