十文字青:僕は小説を書いたり、物語を作ったりするのが結局のところ一番好きです。向いているのかどうかはわかりませんが。作家という職業に就いていると、ありがたいことに、それ以外のことをあまりしなくても生きてゆけます。できれば一つたりともしたくないのですが、作家も社会の一部ですし、多少は人付き合いをしないといけません。雑事もあります。税金だって納めないといけません。そうはいっても、限られた人生のかなりの時間、やりたいこと、やるべきことに集中できるのですから、とても恵まれていると言えるでしょう。
作家の人生は自分次第です。何事も自分で考え、自分で決めなければなりません。まあAIがこのまま発展していったら、作家でさえ考えることや決めることの大部分をAIに任せるようになるかもしれませんが、おそらく僕はその方法を採らないでしょう。たいして賢くはなく、しばしば誤りを犯し、成功より失敗のほうが多いとしても、自分の頭で考えて自分自身で判断するということ自体に、ある種の充足感をえるように人間はできています。それに、自分が状況をコントロールしているという感覚を失うと、人によっては精神の平衡を保てなくなるのです。僕はそういうタイプの人間ですから、自分のことはできるだけ自分で決めたいのです。
作家も一人で生きているわけではなく、仕事の関係者が大いに助けてくれますし、読者の存在も支えになります。しかし、結果の責任は作家自身が引き受けるしかありません。あえて雑な言い方をすれば、本が売れなければ仕事がなくなったりします。たとえば担当の編集者も、本が売れないことで責任を感じたり、そのキャリアに傷がついたりすることもありえますが、失業することは稀でしょう。しかしながら、作家が売れない本を何冊か出したら、作家として生きる道を閉ざされてしまいかねません。
僕もたまに、果たして数年後、自分は作家として生計を立てていられるだろうかと考え、恐ろしくことがあります。なんとかなるだろうと楽観しているわけでは決してなく、自分なりに色々と手を打ってきて、現時点ではどうにかなっていますが、いつか路頭に迷うかもしれません。よほど大きな成功を収めない限り、何の保証もないという不安定さにつきまとわれます。
それでも、世事に煩わされることが比較的少なく、万事自分次第で、これこそ自分自身が望んだ人生ですから、この生き方が気に入っています。僕が破れかぶれにならずにすんでいるのは、作家として生きているからだと思います。