橋本 省二:ブラックホールに呑み込まれてしまった物質はどうなってしまうのか。気になりますよね。普通、陽子と中性子の数(を足したもの)は変化しないと言われます。原子核の壊変はすべてそうなっています。だからこそ、陽子が消えてしまうことがあったら大事件。大統一理論の証拠だ、というわけでスーパーカミオカンデでもう何年もその証拠を探しているわけですが、ただの一つも見つかっていません。やはり陽子と中性子の数(の和)は不変なのです。ところがどっこい。ブラックホールに落ちてしまったが最後、落ちたものが何だったのか、陽子が何個あったのかは知る由もありません。ブラックホールは少しだけ質量を増やし、そのまま静かに存在し続けます。おそろしい。物理学の法則を何だと思ってるんでしょうか。
もっと悪いことに、ブラックホールはいずれ蒸発すると考えられています。ブラックホールの表面ではたらく量子効果のせい。ホーキングの理論ですね。ブラックホールはわずかながら電磁波を放射し続け、徐々に質量を失っていく。軽くなってくると最後にパッと光って消えてしまうと考えられます。そう。これまでに呑み込んだすべての粒子と一緒に。よって、宇宙の終末はすべての物質がブラックホールに吸い込まれ、そして最後にブラックホールの蒸発とともに光となって消え去る。宇宙は膨張しつづけるので、その光も引き延ばされてついには...。これが熱的死のシナリオですね。
ご質問は、物質はどこに行ってしまうか、でしたね。私も疑問ですが、このシナリオ通りなら本当になくなってしまうことになります。量子論と重力理論を考え合わせると、これがありそうなシナリオだというわけです。もちろんすべてが理解できているわけではありません。特にダークエネルギーが将来どうなるかなんて誰にもわかりません。正体不明ですから。もしかすると宇宙は膨張が加速したあげく、すべての素粒子が生き別れになっておしまいという可能性すらあります。
量子論と重力理論は仲が悪い(量子重力理論は未完成)と言われます。だとしたら、上記のホーキングの理論にももちろん疑う余地はあります。何とか観測して検証できないか。大きなブラックホールは寿命が長すぎて無理ですが、宇宙初期に作られたかもしれない小さなブラックホールがなら、漂っていたものが突然蒸発するのを観測する可能性はあるかもしれません。原始ブラックホールといいます。そもそもそんなものがあるのかって?
もちろんそれもわかりません。でも夢があると思いませんか?