小川仁志:親の介護は法律上義務であるかのように定められていますが、何が何でも強制されるわけではありません。できないのにやらせるのは、それこそ国家として人権侵害に当たりうるでしょう。ただし、その場合の「できない」という言葉の意味が問題になってくるのだと思います。ここでは法律論の前にそもそも哲学的に親の介護の意味について考えてみたいと思います。そもそもなぜ親の面倒を見るのか？　それは子どもとして親にお世話になったからでしょう。つまり恩返しとしての意義が考えられます。また、家族という共同体における助け合いの意味もあるといえます。同じ共同体に生きる者同士、相互に助け合うのは古代ギリシアの哲学者アリストテレス以来、説かれてきた倫理です。さらに、親ではなくても、困っている人を助けるのは利他主義の実践であるといえます。親子とはいえ他人ですから、逆にいうと利他主義の対象になるというわけです。以上のように親の面倒を見る理由には、複数考えられます。しかしいずれの理由に照らしても、自己を犠牲にすべき理屈は見当たりません。恩返しも、相互扶助も、利他主義も、あくまで自分ができる範囲でやるべきことですから。そうすると、自らの心身の限界が原因で他者に手を差し伸べる余裕がないような場合、親の介護という義務を免除してもらうことは、逃げることでもなんでもないと思うのです。そのために世の中には、社会が介護を行うという仕組みがあるわけです。だからやれる範囲で、あるいはやれる時にやるというのでいいように思います。そうでないと、介護される側の人間もつらいでしょうから。介護とは、あくまで人間同士の相互行為であることを忘れてはいけないように思います。

こころのお医者さん®︎:精神科医として認知症患者さんを数えきれないほど見てきましたが、親の介護をしない家族はたくさんいます。また、介護はプロに任せた方がいいことも多いです。親子関係が複雑だった場合はなおさら。 気持ちの折り合いをつけるつけない以前に、やりたくない気持ちそのままに逃げ切っちゃえばよいのでは。お嫁さんたち含め、ご兄弟たちに「申し訳ないけど、私は親と過去にいろいろあったから、親の介護はできない」とはっきり伝えてもいいと思います。 そもそも、どうして「唯一独身の私が親から逃げるのは兄弟のお嫁さん達にも申し訳が立」たないのでしょう？私にはあなたがそう思う理由が全くわかりませんでした。介護は独身者の仕事ではありませんし、わたしも主治医として独身のご家族が介護してくださいとお願いしたことはありません。独身の娘がいても、既婚息子さんやお嫁さんがメインの介護者となっているご家庭もたくさんあります。 確かに、義理の母の介護を嫌がるお嫁さんもいるかもしれません。でも、それはご兄弟とお嫁さんのご家庭の問題であって、あなたが悩むべき問題ではないのではないしょうか。ここでの問題は、あなたが親の介護をしたいかしたくないか、ただそれだけ。そして、あなたはしたくないと結論が出ているのです。それ以上はよそのご家庭の問題です（と言うと、あなたのご両親の話ではあるので流石に語弊がありますが。もう少し言うと、希望を伝えるのとは別に、同じ両親から生まれた兄妹である以上可能な限り協力する必要はあるかと思います）。 いずれにしても、親の介護は大事なことですから、一度ご兄弟としっかりお話をしてみてください。案ずるより産むが易しで、あなたの望むようになる可能性も案外低くはないと思います。 あと、いざそのときを迎えて困り果てる前に地域包括支援センターに相談しておくといいかもしれません。地域包括支援センターとはなにか、厚労省のサイトはわかりにくかったので学研さんのこちらを（回し者ではないです）。＞https://www.cocofump.co.jp/articles/kaigo/98/

さえきじゅんこ:介護をするしないは、既婚か未婚かではなく、個人の主体的選択によるものであるべきです。私自身は、自分のキャリアをあきらめて（高度成長期の専業主婦としては主流的選択でしたので）私を育ててくれた母親に恩返しをしたい、少しでも母の助けになりたいと思い、今こそそうだと、要介護５になった母親のために全面的にケアをしたいと思ったものの、生計労働をしなければならないため、仕事のある平日はどうしても親の世話をすることができず、文字通り泣く泣く、平日はホームでお世話になり、週末に自宅で介護する、5年目くらいになると、自分の体力もおちてきてしまい、自宅での週末の世話は少なくなりましたが、ホームには通って顔を見て話し相手になる、ホーム近くで車いすを押して散歩するという生活を送っていました。しかし驚いたのは、多くの既婚家庭の人々が、親をホームに”おきっぱ”（としかいいようのない状況）にしており、少なからぬお金を払ってホームにいれているのだから、自分たちが世話をしなくてもよい（いや、そのためにホームがあるわけなので、それはそれで合理的判断ですが……）、という状況が少なからずあったことです。ただ、私はそうした状況を必ずしも批判しているわけではありません。子供さんが受験であったり、ほかの仕事でお忙しいなど、ホームにあまり顔を出すことができないそれぞれのご家族の事情がおありだったのだと想像しておりました。また、小津安二郎の映画『東京物語』が描くように、血のつながった”家族”は高齢の親に冷たいのに、お嫁さんは思いやりがあり親切という場合もあり、親に対する接し方には個人差があります。ですので、独身だから介護するべき、お嫁さんたちにもうしわけがたたない、ということではなく、きちんとご親族と話し合って、経済的な要素（たとえばデイケアやホームの費用をどなたがだされるかなど、ケアが必要な時間には誰が担当するかなど）、納得できる役割分担を話し合われるのが一番です。私の場合は、親が脳卒中で突然要介護５，身障者手帳になってしまいましたので、娘の私が全面的に介護したくても仕事との両立が難しかったのですが、おやごさまの介護度がどの程度かにもよります。介護度が１や2であれば、ご本人が生活上できることも多いですので、ご親族のどなたがなにをどう分担されるか、ホームでお世話になるか、デイケアでお世話になるかなど、ケースバイケースです。私の独身の友人も、要介護になったお母さまをとても大事にされていましたが、それは、私も友人も積極的に介護したかったからであり、すべての独身女性にあてはまるとはいえません。ですので、独身だからという理由だけでおしつけられるということではなく、繰り返しになりますが、そのときのおやごさまの状況もみながら、経済的、時間的に何か公平な結論かを、ほかのご親族があなたのみに責任をおしつけてずるずる”逃げる”ということもないように、ご親族とよく話し合われてください。