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ご質問を読んで最初に思ったことは「プログラミング言語はまだ生まれたばかり」ということです。ほとんどのプログラミング言語は20世紀よりも後に生まれたものです。生まれたばかりのプログラミング言語たちですから、欠点もたくさんあるし、表現力も低いし、改良すべき点は無数にあります。コンピュータの環境も激しく変化していますから、それに応じて求められるものも変化するでしょう。また、よいプログラミング言語によって生み出される効率は、直接的にビジネスに関わってくることも多々あります。ですから、どうしても次々に新しいものが生まれてくることは避けられないでしょう。

次々に生み出される新しいプログラミング言語を覚えていくのが大変だと感じるのはとてもよく理解できますし、「一つか二つを覚えれば良い」という気持ちになるのもわかります。でも、「今後世界中のプログラマは一つか二つのプログラミング言語しか覚える必要はない」という時代は、少なくとも現在生きている人が見ることはありえないと思います。ずっと未来ならばあるかもしれませんけれど。

別の観点から考えてみます。たとえばプログラミング言語よりも歴史が古くて、バリエーションがかなり少ないものとして「数式」があります。地域や分野によってばらつきはありますけれど、数式の書き方というのは世界共通に近いものがあると思います。ある国で数式の書き方を覚えたら、その知識の大半は別の国で書かれた数式を読むのにも役立つでしょう。似たものには「楽譜」もありますね。

数式や楽譜くらいの年月が過ぎればプログラミング言語も数が落ち着くでしょうか。私には何ともいえませんけれど、それは怪しそうです。

また別の観点から考えてみます。あなたがソフトウェアエンジニアというプログラムに関わる仕事をしているのは、コンピュータに関わる分野が大変活発な分野であり、新しいものが生み出され、また私たちの生活を大きく変えていくチャンスと可能性に満ちた分野だからではないでしょうか。コンピュータに関わる分野は、そのような大きな魅力を感じる分野ですよね。そしてこの分野の活発さは、まさにプログラミング言語が次々に生まれてくるような状況と表裏一体といえるでしょう。活発さがあるからこそ、たくさんの投資がなされ、少しで良いものを生み出そうと賢い人たちが知恵を絞り、プログラミング言語やそれを支える開発ツールが作り出されているのです。

もしも「一つか二つを覚えればよい」という状況になったとしたならば、それはコンピュータに関わる分野が持つ魅力が、現代とはずいぶん違ったものになっている時代だと思います。

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結城浩

EngineerWriter

本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。文章を書くこと、学んだり教えたりすること、プログラミング、数学、人と人とのコミュニケーションなどに関心があります。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。アマゾンの著者ページは https://link.hyuki.net/amayuki にあります。なお、私は数学読み物を書いていますが、数学科出身でもありませんし、数学の研究者でもありません。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。〔ゆうき・ひろし〕