田口善弘@中央大学:なぜヒトだけ無毛になったのかに書かれていますが、一般には、体温の上昇を防ぐため、と言われています。人間は他の類人猿と違い草原に出て二足歩行し、時には走ったりしないといけなくなったので、毛皮で体温を保持するよりも、放熱して体温が下げられるように毛皮を失ったと考えられています。人間以外で無毛の哺乳類はゾウやサイがありますがこれらも体温上昇を防ぐために毛皮を失ったと考えられているようです(ゾウやサイは人間みたいに走ったりはしませんが、一般に放熱は体表面積、発熱は体重に比例しますが、体表面積は大きさ(長さ)の2乗でしか増えないのに、体重は3乗で増えるので大きな動物ほど放熱より発熱が大きくなって熱がたまりやすいので保温より発熱が重要になります)。アクア説(人類が無毛なのは昔水棲だったから)なんてものもあったそうですが、夢はありますが今は否定されていると思います。なんだかあんまりも白くない理由でごめんなさい。(もっと読む)
小林朋道 公立鳥取環境大学 教授 動物行動学 進化心理学:ヒト(ホモサピエンス)が進化的に誕生した場所については、これまではアフリカの赤道下の草原地帯(サバンナ)と考えられてきました。今後、この表現が雑すぎて別な表現に変えられることはあると思いますが、ヒトが、サバンナという、強い太陽光を受ける地帯で生活していたことは確かだと思われます。ヒト以外のサバンナの動物(ライオンやインパラなどの哺乳類)が毛皮を備えているのになぜ人だけが体毛を失った(正確には、体毛の一本一本が細くなりまばらになった)かについては幾つかの仮説が提示されています。例えば・・・ 汗腺を発達させ(汗をかいて体温を冷やす)、体毛をなくすることで、体温の上昇を防ぐ(特に、直立したときは、直射日光に当たる部分が減り、より効果的だった。頭は日光が強く当たる場所なの体毛としての髪が残っている)。 興味深い説としては、解剖学者や海洋生物学者が提唱し、英国の作家、エレイン・モーガンがそれらの内容を本に書いて出版し、話題になった(今でも時々、話題に上る)「アクア説」と呼ばれるものがあります。哺乳類の中でも体毛がないのは、クジラ、アザラシなどの海洋哺乳類である。彼らとヒトとの形態的(解剖学的)類似点はいろいろあって、体毛がない(水中での遊泳には不利になる)ことのほかに①皮下脂肪がとても厚い(水中では断熱として働く)、②体形が流線形である(例えば、ヒトと、系統的に一番近縁なサバンナ周辺に棲むチンパンジーと比べると、いかにヒトの体が、水の抵抗を受けにくい流線形であるか分かる)。③チンパンジーなどには全く見られない”水かき”のような構造を手や足の指の間に持っている。 そういった事実から、アクア説は、ヒトは、ヒトに至る進化の途中で水中生活をしたことがある(水中生活に適応した)と主張しています。 確かに、ヒトでは、生後間もない乳児は水を怖がらず、水中で反射的に息を止める能力を持っていたり、成人も練習すれば、かなり長距離を泳いだり潜ったるすることができるようになる。また、ヒトは水中に入ると心拍数が減る潜水反射を備えている。 こんな特性は、チンパンジーなどの類人猿には全く見られません。 この説によれば、ヒトが体毛を失ったのは、水中生活への適応ということになります。 ずっと無視されてきた説だが、近年は、この説の信憑性について議論する研究者もいます。(もっと読む)