ネル:結論としては、スキルレベルについては心配ないと思います。 １　M&A案件で使う財務モデル ２　ご質問者さんのスキルレベル ３　顧客に提示できるレベルか 　 １　M&A案件で使う財務モデル ご質問いただいた2点目について掘り下げます。 M&A案件においては、秘密保持契約を締結したうえで、さまざま非公開情報を受領します。売上や費用の詳細や、今後の設備投資計画、係争中の訴訟や、環境や労務のトラブルなど、一般には開示されていない情報を幅広く入手できます。また、それらの情報に基づいて、弁護士・税理士・会計士などが分析・調査を行います。当たり前のことですが、専門家を総動員して情報を収集すると、1人で有価証券報告書を読んでいるときと比べて、多くの情報を得ることができます。 このような情報量の差は、当然、財務モデルの方針にも影響します。例えば、「顧客から30億円の賠償金を請求されている」という状況を考えます。この情報が開示されていなければ、モデルに反映することはできないため、作業が発生しません。しかし、この情報が開示されていて、かつ、弁護士の助言も得られる状態であれば、最終的にいくら支払うことになりそうかを推定したり、今後似たような訴訟を受ける可能性はないかを考えたりするのが自然です。分析の結果は、特別損失や有利子負債同等物としてモデルに反映されます。公開情報のみから財務モデルを作る場合と、M&A案件などで使う財務モデルの最大の違いは、このような追加作業の有無だとお考えいただいてよいと思います。 より正確には、本質的な違いは情報量の差にあります。M&A案件かどうかはあまり関係ありません。情報開示が限定的な案件であれば、公開情報に基づいたモデルとほぼ同じものになるでしょうし、経営管理部が自社の分析をする場合は、得られる情報量が多いため、一般的なM&A案件よりも詳細なモデルになるはずです。また、誰が算定するかもあまり関係ありません。プリンシパルが算定する場合でも、FAが算定する場合でも、情報量とスキル水準が同じであれば、概ね同じモデルになるはずです。 　 ２　ご質問者さんのスキルレベル １に書いたことがほとんどすべてなのですが、有価証券報告書と同程度の情報しかお持ちでないのであれば、講座で扱ったようなモデルで十分だと思います。 そして、このご質問をいただいているということは、それほど多くの情報をお持ちではないのだと推察しています。M&A案件において数千件の資料を受領している場合や、顧客の経理部と連携して膨大な売上データにアクセスできている場合であれば、いただいたご質問のような聞き方にはならないと思うからです。 結論としては、白紙から解答版（特に練習問題DやE）と同じレベルのモデルを作れるのであれば、すでに初心者を卒業できています。もちろん、まだまだ勉強することはあると思いますが、どの会社で働く場合であっても、スキルが低すぎて話にならないという状況にはならないと思います。 　 ３　顧客に提示できるレベルか スキルレベルに不安を感じる必要がないと考えている理由が、もう1つあります。 やや失礼な言い方になりますが、まともなコンサルティング会社であれば、インターン生に作業をさせたりはしません。まして、社員がしっかりと品質管理をせずに、学生であるご質問者さんにある程度一任しているであろう状況が、一般的な社会人の感覚としてはかなり異常です。そういう職場であることを踏まえると、ご質問者さんのスキルレベルは、社員と比べても十分に高いのではないかと予想しています。 おそらく、相応に安い手数料で、相応に小規模な仕事を請け負っているのだと思います。その状況であれば、多少のミスは許されるでしょうし、少なくともインターン生が何らかの責任を問われる状況にはならないと思います。仮にご質問者さんが重大な間違いを犯したとしても、社員も顧客も気づかない可能性が高いです。