山中 大学 (Manabu D. Yamanaka):観測は今現在も地球上が全て完全にカバーできているわけはでなく,特に日本の東方南方の広大な太平洋(また今世紀になるまでは中国も含めて西方北方の陸上も)は観測が少ないため主に計算によって天気図が描かれており,その意味では気象・気候は過去も(観測が全くない点は勿論大きな違いではありますが)未来も計算精度に依存しています.勿論,天気予報の実用上,短時間で計算結果を出さねばならない近未来の予報計算とは違い,主に研究的あるいは防災など応用的な目的で行なわれる過去に関する計算(「再解析」と呼ばれます)では,より多くのより品質管理されたデータを用い,時間的推移についても「正解」を対照しながら行えます.日本気象庁では1947年9月以降の75年間の「再解析」を行なって公表しています. 基本的には同様にして19世紀後半の気象観測の国際的実施・データ交換開始までの計算は行うことができ,その結果はこのMond上でも既に簡単に紹介させて頂いた通りで,それに基づいて人為起源の地球温暖化が立証されています. それ以前については,地球平均気温の現在に至る数千年以上,46億年前の地球創成以来の「地球史的時間的変化」については,これも6600万年以降については紹介しましたが,それらは(古)生物学的あるいは地質学的なものから推定したものです. 一方,どんなに過去であっても,大気の量と組成,日射や地球の自転・公転,海陸分布,植生(の有無)などがわかって(仮定できて)いれば,その条件下での「1年あるいは数年の気象・気候の数値実験」を,今使っている天気予報・気候予測モデル(の係数などの値の修正版)を用いて行なうことができます.この場合は,実際にどこで何日に雨が降ったかなどは確認できなくても,その時代において例えば各緯度帯や海上陸上で気候がどう違ったかなどは正しく計算できます.2021年ノーベル物理学賞受賞の真鍋博士による氷河期の気候のシミュレーションなどが既に発表されています(阿部東大教授による一般向け解説).(もっと読む)
竹村俊彦:日々の天気予報や、長期的な将来の気候変動予測は、気象モデルや気候モデルと呼ばれるソフトウェアを使って行われています。このソフトウェアでは、各地点・各時間での風向・風速・気温・水蒸気量・雲・雨などが、原則として物理法則に基づいて計算されます。天気予報や気候変動予測では、このソフトウェアを使って、時間順方向へ計算を進めていきます。ご質問の過去の気象を予測(再現)するには、原理的には、これを時間逆方向に進めればよいということになります。 ただし、気象観測のない時代の日々の天気を予測(再現)することは、そもそもできません。それは、現在の日々の天気予報は、観測データのある現時点から、約2週間先ぐらいの未来までが限界であることから理解できます。これは、ソフトウェアは完璧に気象状態を計算できるわけではないことや、観測データにはどうしても誤差が含まれますが、ソフトウェアで時間方向に計算を進めていくと、その誤差が増大していき、時刻のズレなく気象変化を予測することが難しいためです。時間逆方向に計算していく場合も同じことが起こります。 ただし、2週間以上であっても、日々の天気ではなく、翌月の平均的な気象状態とか、数十年先の平均的な気候状態といった、平均的な状態をソフトウェアを使って予測することは可能です。3ヶ月予報や、将来の気候変動を予測することが可能であるのは、そのためです。 ちなみに、このソフトウェアは、実際の状態を再現したり予測したりするだけではなく、現実ではない条件でも計算できるというのが大きな強みです。将来の気候変動は、人間がこれからどのくらい温室効果ガスなどを放出するかに依存しますが、その量は正確にはわかりません。そこで、その量をいくつかのパターンとして想定して、それぞれについて将来の気候変動予測が行われています。(もっと読む)