空間はなぜ3次元なのか。寄せられた質問のなかでもダントツで難しいものではないでしょうか。答えは「わかりません」。それだけなんですが、どれくらいわからないかをお話ししてみたいと思います。うまく伝わるでしょうか。

究極の理論とされる超弦理論。すべての物質と時間・空間もすべてそこから導き出されるのではないかと期待されている理論です。この理論が矛盾なく書けるのは10次元時空においてだけだと(数学的に)わかっています。時間1次元、空間9次元ですね。これが本当に物質と空間の正しい理論なら、この余分な6次元をどうにかしないといけない。余分な次元は小さく丸まって見えなくなっていると考えることにするコンパクト化が必要になります。ところが、それがどうやって起こるかがわからない。何しろ超弦理論は摂動的な(つまり近似的な)方程式がわかっているだけで、根本となる基礎方程式がわかっていないので、何が起こるかを解析のしようもないわけです。おかげで無数のコンパクト化を考えることができ、その中には現実の宇宙に合うものもあるだろうけど、だから何だという話になってしまいます。何も予言できないからです。

そうこうしているうちに、もっと不思議なことがいろいろとわかってきました。超弦理論の解には弦(ひも)だけでなく、膜とかもっと高次元のものとかがいろいろある。ブラックホールを高次元化したもので、ブレーンと呼ばれます。ブラックホールは、ホーキング放射といってある温度に相当する光を放つことがわかっています。ブラックホールは古典的な重力理論で現れるのに対して、ホーキング放射は量子的なものですから、その理解には重力の量子論が必要です。ブレーンを調べてわかってきたのは、ブラックホールをあらわす曲がった時空全体が、その表面の量子状態だけ見ればわかるという驚くべき性質でした。AdS/CFT対応、もしくはホログラフィ原理と呼ばれることもありますね。これを認めると、哲学的ともいえる問題が持ち上がります。重力をあらわす空間(仮に9次元としましょうか)のことは、その表面(仮に3次元としましょう)の量子論で書かれる。じゃあその9次元は実在なのか? そういう問題です。

空間には距離という概念がありますね。ある点から近い点と遠い点がある。その違いは表面にある量子論の言葉では、量子もつれの強さに翻訳されます。空間とは量子的にもつれた状態のことではないか。そういう考えも成り立ちそうです。つまり、空間はそこにあったものではなく、ある「状態」として生まれたものだというわけです。これを称して「宇宙は情報でできている」という標語で呼ぶ人もいます。

空間が3次元なのはなぜか、どころの話ではありません。そもそも空間とは実在か?という話になってしまいました。これからいったいどうなるんでしょうね。楽しみです。

2023/03/21Posted
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