昇給を素直に喜べません。

昇給、昇格という話があると、責任が増えることへの不安感が強く、できれば辞退させてほしいと思ってしまいます。

ただ単に給料が上がる分には自分の役割は基本的には変わらないはずなのですが、「(さらに)未来への投資」という意味を持つ気がして喜べません。

正社員のソフトウェアエンジニアとして働いています。会社では、メンバーとしてよく出来ているのでリーダー、のような昇格になります。私にとってはサッカーの地域大会一位のチームが野球の県大会とか甲子園に出るようなイメージで、サッカーしたいのにな、という気持ちがある気がしてます。

ただ、会社員として働く以上、避けては通れない道なのかなとも思うようになりました。

結城先生は以前にプログラマーとして会社に所属して働いていたことがあるというお話を聞いたことがあります(正確でなかったら申し訳ありません)。今は会社員とは違う形でのお仕事をされていると思います。会社員として働いていた時と今ではこのような部分について違いを感じますでしょうか?

昇給や昇格の話があると、その背後にあると思われる会社からの期待感や、自分が将来的に担わされるであろう責任の増加や、現在自分が慣れ親しんでいる役割の変化などから、昇給や昇格を素直に喜べないということだと理解しました。

会社側としては社員をできるだけ有効活用したいと考えるため、あなたが想像なさるような「未来への投資」という意味もあるでしょうね。別の言い方をするなら、会社から見えるあなたは現在よりも大きなことができる、とも言えるでしょう(好むと好まざるとに関わらず)。

また、会社によっては社内のメンバー全体の年齢やキャリア分布も考えているでしょうね。簡単に言えば、経験を積んで年齢が上がってきた人が平メンバーのままだとちょっと……と考えるケースです。それは会社の考えにも大きく依存するわけですけれど。

会社としては、集まった社員のパフォーマンスの総和を最大化したいでしょうから、誰をどこに配置して、どんな仕事を担わせるかは重要課題です。OSがプロセスにリソースをどう割り当てるかを考えるのと同じ話ですね。それがうまくできれば会社としてもレベルアップできるというわけです。その意味では、会社員として働く以上は避けては通れないものだと思います。

実際、私が現役のプログラマをやっていた時代(はるか昔)であっても、「プログラマとしてコードを書き続けていたい」vs「リーダーや管理者となって大きなチームを管理してほしい」というせめぎ合いは、私も含め、周りの開発者で常にありました。現代でもそれは変わらないでしょうね。

現在の私はフリーランスの個人事業主として、本を毎日コツコツ書く生活ですから、その意味ではまったく違う環境にあるといえます。私に対して「あなたはこれからこういう活動をして欲しい。給料もアップするよ」と言う人は誰もいませんから。

その代わり、会社員時代には他の人がやってくれた作業も自分ですべてやらなくてはいけません。企画を立てたり、会計をやったり、環境を整えたり、健康管理を行ったり……OSの比喩を使うなら、自分にどういうリソースを割り当てるかを考えるのも自分ということになります。

「何でも自分でやらなければならない」と表現すると、それは大変ですねになってしまいますが、別の言い方をすると「何でも自分でやることができる」になります。誰に根回しする必要もなく、自分の好きな企画を立て、環境を整え、働く時間も自由に決めることができ、働くことができる。確かに大変ですけれど、張りがあって楽しいといえます。実際、とても楽しいですね。

あなたの話に戻しますと、会社とあなたの関係というのは永続的なものではありません(永続的にすることもできますけれど、それはあなたの選択だという意味です)。いまあなたがやっている仕事はいつまで続けるのか、来年は、三年後は、十年後は……? どの業界で、どんな業務を行っていくのか、収入はどうありたいか、自分の時間はどう使いたいか……?要するに、それは自分のキャリアパスを考えることであり、自分の人生を俯瞰して眺めることでもあります。

どこにいても、何をやっていても、時間は過ぎていきます。自分の年齢は上がっていくし、世の中も変化します。そんな中で、自分は(あなたは)どのように生きていきたいか。どんな生活を目指したいのか。昇給や昇格に対して「素直に喜べない」というだけではなく、「では、私は今後、どうありたいのか」まで含めて考えるのは意味があることだと思います。

人生、正解はありません。ぜひ、じっくり考えてみてくださいね!

2024/06/26投稿
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